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野辺送り。 [子ども・家族のこと。]

 故人のかねてからの希望で通夜も告別式もなく、密葬という形で、
17日、父と告別した。
 友引で斎場が休みということも相まって永眠してから告別するまで
2日間のタイムラグができていた。密葬をサポートしてくれたセレモ
ニー会社のスタッフの方が「お父様を斎場にお連れするまでの間、安
置する会館へはいつでも面会にいらして下さい」というので、昨日に
兄と私、そして母とプッコさんを連れてはるばる1時間半以上かけて
西横浜まで面会に出かけた。

 大きな冷蔵庫に棺ごと納められた父。寒かろうなぁと切なくなる。
 でも顔を見せてもらったら、亡くなった直後よりもさらに穏やかな
顔に見えた。兄も同じことを感じたという。
 魂が解放され、辛いことも悲しいことも痛いこともなくなってどれ
ほど楽になったのだろう。
 師走とは思えぬほどの厳寒の中、はるばる出かけて行った意味が確
かにあった。穏やかなその顔を見たことで私たちは心底安心し、帰途
につく。

 そして今日。
 昼下がりの時間帯に父と斎場で告別した。

 相変わらず笑みをたたえた顔。透き通るような父の顔。
 家族みんなで美しい花々を棺に納め、父が大好きだった甘露飴と、
体を壊すまでこよなく愛した日本酒をそっと傍らに置く。
 泣くまい、と思っていたがやはり父の微笑む顔を見ていたらとめど
なく涙が溢れた。

 「飴が食べたい…」
 昏睡になる前に父が母に言った言葉。絶飲食だったのでその願いを
かなえてやることもできず、それだけが心に残る。
 
 父は小さな骨壺にすっぽりと収まって兄の懐に抱かれ、我が家に帰っ
てきた。
 病院で「おれも帰りたい」と最後の言葉を呟いた父。
 やっと帰ってこられたね。

 通夜も告別式もなく、家族で「本当に良かったんだろうか」と考え
たりもしていたが、父はあまり社交的な人ではなかったし、家族だけ
で温かく送ってあげられたのだから、それはそれで満足してくれてい
るのではないかと思うことにした。

 親を送ること…とても心細いこと。
 今まで「この、くそじじい」と思ったことが何度あったことか。
 冷たく接し、ろくに口もきかなかった近年。

 死んだからといって全てが美化されるわけではない。でもそういっ
た理屈ではない何かの感情がずっと胸の奥に重くのしかかる。
 親を送ることとはこんなに重いことだったのかと。

 父さん、あの世ではわがまま勝手をしなさんなよ。
 じいちゃんやばあちゃんには会えた?
 お兄さんと酒を酌み交わしているの?
 お父さん、あちらでは人の話をよく聞くんだよ。
 自分の意見をごり押ししないようにね…

 など無意識に考えている自分がやけに可笑しかった。そして同時に
涙が溢れた。

 お父さん、さようなら。
 またいつかお会いしましょう。
 その時は私ももう少し素直にお父さんの胸に飛び込めるかもしれな
いね。
 その時まで、しばしのさよなら。

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